そもそも贈与とはどのような行為?
贈与とは自分の財産をほかの人に「ただであげる」ことを言います。
贈与が成立するにはあげる人(贈与者)が「贈与する」という意思表示を行い、もらう人(受贈者)が「もらいます」という意思表示をする必要があります。
重度の認知症である父親の口座から子供がお金を引き出して子供自身の口座に入金した場合、父親から子供への贈与は成立しているでしょうか?
贈与者(父親)が「贈与する」という意思表示を行っていないため贈与は成立しないということになります。
では孫の通帳と印鑑を管理している祖父が孫の口座に入金していましたが孫はその事実を知らずにいた場合、祖父から孫への贈与は成立しているでしょうか?
受贈者(孫)が「もらいます」という意思表示を行っていないため贈与は成立しないということになります。
贈与が成立したと思っていても法的には成立していないということになると税金対策として有効でないだけでなく、「争続」の原因となりかねません。
このような事態を回避するには贈与者が「贈与する」という意思表示を行い、受贈者が「もらいます」という意思表示をしたことを明確にすることが必要です。このような意思表示を行ったことを書面上明確にしたものが「贈与契約書」です。贈与契約書には決まった形式はありませんが贈与する財産や贈与者と受贈者の住所を記載し、贈与者と受贈者が自署・捺印するのがいいでしょう。
贈与税には暦年課税と相続時精算課税の2種類があります
贈与をした場合にかかってくる税金が贈与税です。
贈与は相続税対策として非常に有効ですが、効果的に行うためには贈与税の仕組みを理解することが不可欠です。
贈与税の計算方法は大きく分けて暦年課税と相続時精算課税の2つがありますが、これまで(令和5年12月31日まで)はほとんどのケースで暦年課税による贈与が行われていました。
それは暦年課税のほうが手続きが簡単であり、節税効果も大きかったからです。
ただし令和5年度の相続税・贈与税の改正により必ずしも暦年課税のほうが節税効果が大きいということは言えなくなりました。
ここでは今までよく行われてきた
暦年課税について説明をします。
相続時精算課税について知りたい方はこちらをご覧ください。
→
贈与を相続で精算する? 難しい相続時精算課税を分かりやすく解説します
贈与税(暦年課税)の仕組み
贈与税(暦年課税。以下「贈与税」と記載します)は所得税や法人税などと比べると仕組みが分かりやすい税金と言えます。
次の3つの点を理解すれば贈与税の基本はおさえることができます。
(1)贈与税は
財産をもらった人ごとに課税されます。
(誤解している人が非常に多いのですが)財産をあげた人に課税されるわけではありませんのでご注意ください。
(2)贈与税はその年の
1月1日から12月31日までにもらった財産の合計金額に対して課税されます
(3)もらった財産の合計金額のうち110万円(基礎控除額)までは贈与税は課税されず、110万円を超える金額について課税されます。
この3つの点が理解できているかを確認するために問題を出してみたいと思います。
父は長男に110万円を贈与しました。この場合、贈与税を支払わなければならないでしょうか?
1年間に110万円までの贈与については贈与税は非課税とされています。
そのため、このケースでは贈与税を支払う必要はありません。
では、次のように父が長男と長女にそれぞれ110万円を贈与した場合は贈与税を支払わなければならないでしょうか?
贈与税は財産をもらった人ごとに課税されます。
長男と長女はそれぞれ110万円(基礎控除額以下)しかもらっていないので贈与税は課税されません。
では次のように父と母がそれぞれ長男に110万円を贈与した場合、長男は贈与税を支払わなければならないでしょうか?
財産をもらった人(長男)は合計220万円をもらっているので110万円(基礎控除額)を超える110万円に贈与税が課税されます。
贈与税は「財産をもらった人」ごとに、「1年間にもらった合計金額」に対して課税されるということをここで押さえてください。
贈与税(暦年課税)の計算
贈与税(暦年課税)の税率は贈与者と受贈者の関係に応じて次の2つ異なる税率(と控除額)が適用されます。
(1)18歳以上の人が祖父母や両親から贈与された財産(特例贈与財産)
(2)(1)以外の人から贈与された財産(一般贈与財産)
→
兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、義父・義母からの贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などが該当します。
基礎控除後の課税価格が300万円以下の場合(贈与額が410万円以下の場合)は(1)特例贈与財産と(2)一般贈与財産で適用される税率(と控除額)は変わりませんが、基礎控除後の課税価格が300万円を超える場合(贈与額が410万円を超える場合)は(1)の特例贈与財産と(2)の一般贈与財産で適用される税率(と控除額)は異なることとなります。
そのため贈与額が410万円を超える場合は贈与者(財産をあげる人)との関係を踏まえたうえで贈与税の計算をしなければなりません。
ここでは長男(40歳)が父から300万円、母から200万円を贈与された場合で贈与税を計算してみたいと思います。
まず、贈与税の税率は特例贈与財産の税率と一般贈与財産の税率のどちらが適用されるかを判定しなければなりません。
長男は18歳以上(40歳)であり、父及び母からの贈与なので、特例贈与財産の税率を適用します。
次に「基礎控除後の課税価格」を計算します。
「基礎控除後の課税価格」はもらった財産の合計金額から基礎控除額(110万円)を引いた金額となります。
(300万円+200万円)ー110万円=390万円
基礎控除後の課税価格が390万円の場合税率は15%、控除額は10万円となりますので
贈与税額は
390万円×15%(税率)-10万円(控除額)=485,000円
となります。
贈与税の申告はもらった人がします
贈与税の申告は受贈者(もらった人)がします。
1月1日から12月31日までの間にもらった財産について贈与税を計算して、翌年の2月1日から3月15日までの間に申告・納税をします。
また、財産を贈与されて確定申告をした場合、贈与された人の所得税・住民税・健康保険料・国民年金保険料は高くなってしまうのではと心配をする方もいます。
贈与税の申告をしても所得税・住民税・健康保険料・国民年金保険料は高くならないので安心して贈与をしてください!
贈与税(暦年課税)にはお得な特例も
贈与税は1月1日から12月31日までの間に贈与された財産の合計額を計算したうえで贈与税を計算します。
贈与された財産の合計額を計算する上で次のような、次のような特例を使ってお得に計算することができます。
〇住宅取得資金贈与の非課税(特におすすめ!
)
子や孫が住宅を購入・新築する資金を一定額、贈与税が課税されることなく贈与することが出来る制度です。デメリットはほとんどないので利用をお勧めします。
〇教育資金の一括贈与の非課税
子や孫の教育資金を1500万円まで贈与税が課税されることなく贈与することが出来る制度です。使い方を間違えなければ有効な相続対策になります。
〇結婚・子育て資金贈与の非課税
〇贈与税の配偶者控除
これらの特例の中でも特に、住宅取得資金贈与の非課税(特にオススメ)、教育資金贈与の非課税を利用すればさらに効果的に相続対策を行うことが出来るので是非検討してください。
まとめ
贈与税について知っておきたい基礎的な事項について解説しましたがいかがでしたでしょうか?
贈与税の仕組みを理解すれば効果的に生前贈与による相続対策をすることができるはずです。
生前贈与による相続対策の仕組みについても解説していますので是非ご覧ください。
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