死亡保険金の受取人次第で「損」「得」どちらもあります
相続税対策として保険会社や金融機関から提案されることもある生命保険ですが、みなさんは誰を死亡保険金の受取人としていますか?
配偶者(これが圧倒的に多いと思います)、子供、孫を受取人としている場合がほとんどだと思います。
しかし相続税対策として生命保険を利用する場合、誰を受取人とするかで税金が大きく変わるのはご存じでしょうか?
実は
子供→すごく得 配偶者→すこしだけ得 孫→損(やめたほうがいい!) となっています。
しかし生命保険の加入をすすめる人は生活費や医療費などの保障の目的で販売するのが一般的なため、相続税対策では誰を受取人とするのが有利なのかを意識することなく販売しているケースがよく見られます(ほとんどと言ってもいいくらいです!)。
この記事では受取人を誰にするかによって相続税にどのような影響があるのかということについて解説します。
これから相続対策で生命保険に加入することを検討している方は是非ご覧ください。
相続税が課税される死亡保険金とは
死亡保険金の受取人には相続税・贈与税・所得税と3種類の税金が課税されることがあります。
このうち、今回の解説の対象となる死亡保険金は、受取人に対して相続税が課税される死亡保険金です。
相続税が課税される死亡保険金とは
保険料負担者=被保険者 である死亡保険金です。
例えば次のように生前父が保険料を負担していた生命保険契約について、父が死亡したことにより死亡保険金が長男に支払われた場合には、
保険料負担者(父)=被保険者(父)
となるので受取人の長男に対して相続税が課税されます。
そして、相続税が課税される死亡保険金のうち相続人が受け取ったものについては
500万円×法定相続人の数 は相続税が非課税とされています。
たとえば次の親族関係の場合、父の相続人は母と長男なので、母と長男が受け取った保険金は 500万円×2人=1,000万円 については相続税が非課税となります。
なお、相続税が非課税とされる1,000万円は、母と長男の合計で1,000万円が非課税とされます。
母だけが死亡保険金を受け取っている場合は、1,000万円の非課税はすべて母に適用されます。
母と長男がどちらも死亡保険金を受け取っている場合には、それぞれに生命保険金の非課税が適用される金額は、非課税金額1,000万円を受け取った死亡保険金の額で按分して計算します。
たとえば母が3,000万円、長男が1,000万円の死亡保険金を受け取っていた場合、生命保険金の非課税が適用される金額は
となり、母と長男に相続税が課税される金額はそれぞれ2,250万円、750万円となります。
このように相続税が課税される死亡保険金については保険金の非課税という大きな優遇制度があります。
死亡保険金に課税される3種類の税金についてはこちらで詳しく解説しています。
契約前に押さえておきたい 生命保険の死亡保険金に対する3種類の税金について解説します
配偶者を受取人とするのはそれほどお得ではありません
相続税の節税対策ということで配偶者を受取人とする生命保険に加入している場合がよく見られます。
しかし、実は配偶者を受取人にした場合、相続税の節税効果それほど大きくはなりません。
それは配偶者が相続した財産のうち最低1億6,000万円までは相続税を課税しないという配偶者の税額軽減という制度があるからです。
配偶者・子供はどちらも相続人であるため保険金の受取人が配偶者・子供どちらの場合でも、生命保険金の非課税は適用されます。
しかし配偶者はそもそも1億6,000万円まで相続税が課税されないことから生命保険金の非課税を使わなくても相続税が課税されないので、子供が死亡保険金の受取人となり非課税の適用を受けた方が有利となります。
例えば次の親族関係で、父が1億円の財産を残していて、母と長男が5,000万円ずつの財産を取得するケースで、「死亡保険金がない場合」「母の相続財産5,000万円のうち1,000万円が死亡保険金で長男の相続財産5,000万円はすべて現金である場合」「母の相続財産5,000万円はすべて現金で長男の相続財産5,000万円のうち1,000万円が死亡保険金の場合」を比較すると相続税額は次のようになります。
配偶者を受取人とした場合であっても、死亡保険金がない場合とくらべて405,600円相続税が少なくなりますが、長男を受取人とした場合はさらに688,900円相続税が少なくなっています。
同じく生命保険金の非課税の適用を受ける場合でも、配偶者ではなく子供が受けたほうがお得になっています。
この死亡保険金の受取人が異なることによる節税効果は、財産が多いほどその違いが大きくなります。
たとえば上記の例で
父が「190,000,000円の預金」と「10,000,000円の生命保険金」の合計2億円の財産を残していて、母と長男が100,000,000円ずつの財産を取得する場合には次のようになります。
受取人を母から長男に変更することによる節税効果は、先ほどの例の688,900円の倍以上の1,600,000円になります!
ほとんどの金融機関の方はこのことを理解しないで生命保険の勧誘をしているので、生命保険に相続税対策で加入している人は受取人が誰なのかを是非確認してください。
配偶者の税額軽減についてはこちらで詳しく解説していますのでご興味のある方はご覧ください。
配偶者は1億6,000万円まで相続税が非課税 実は二次相続まで考えないと損をします!
孫を受取人とするのは損です
相続税の節税対策として生命保険に加入する場合に孫を受取人としている場合があります。
金融機関の方などから
と説明されて孫を受取人としているケースがよく見られます。
金融機関の言うことももっともだし、孫もかわいいからということで孫を受取人とする方も多いのですが、実は相続税対策として孫を受取人とすることには次の3つのデメリットがあり損なので
基本的にやめるべきです!
デメリット1 生命保険金の非課税が適用できない
受取人を孫にする1つ目のデメリットは生命保険金の非課税が適用できないことです。
生命保険金の非課税は受取人が相続人である場合に適用されます。
孫は親が死亡している場合や養子縁組をしている場合を除き、相続人とはならないので生命保険金の非課税が適用されません。
そのため受け取った保険金の額そのものに相続税が課税されることとなります。
デメリット2 相続税額の2割加算が適用されてしまう
受取人を孫とすることの2つ目のデメリットは相続税額の2割加算が適用されてしまうことです。
孫が相続で財産をもらった場合、相続税額の2割加算という制度が適用され、通常に計算した相続税額を1.2倍した金額が納付する税額となります。
孫が生命保険金の受取人である場合、生命保険金の非課税が適用されないのでもらった保険金額そのものに相続税が課税されたうえに、その1.2倍が相続税額となるので税負担がさらに重くなってしまいます。
デメリット3 本来適用されない生前贈与加算が適用されてしまう
孫を受取人にとすることの3つ目のデメリットは、孫には本来適用されない生前贈与加算が適用されることです。
生前贈与加算とは、相続で財産をもらう人に相続開始前3年以内に贈与された財産については相続税を課税するという仕組みです。
たとえば次の場合、父が亡くなる日から3年以内に長男は300万円の贈与を受けているので、父の相続では相続開始時の財産(9,700万円)と3年以内の贈与財産(300万円)の合計1億円に対して相続税が課税されます。
相続税の節税のために生前贈与をしたとしても意味がなくなってしまう家族にとっては非常に厳しい制度です。
しかし、生前贈与加算は
相続で財産をもらった人 に適用される制度です。
孫は基本的に相続人ではないので相続で財産をもらいません。そのため孫には生前贈与加算も基本的に適用されません。
孫への贈与は財産を1代飛ばしで渡すことができるだけでなく、生前贈与加算も適用されないので非常にお得な贈与なのです。しかし、
死亡保険金の受取人を孫とした場合には孫は相続で財産をもらうこととなるため、孫も生前贈与加算が適用されてしまいます。本来お得なはずの孫への贈与が生前贈与加算が適用されることによりお得ではなくなるというのが3つ目のデメリットです。
まとめ
死亡保険金については 500万円×法定相続人の数 は相続税が非課税となることはよく知られていて、保険加入のメリットとしてよく説明されます。
しかし、受取人によって節税メリット(デメリットも!)が変わることを知っている方は非常に少ないです。
もし相続税の節税目的で生命保険に加入している方がいましたら、是非受取人をチェックしてください。基本的には子供を受取人とするのがベストで、孫を受取人とするのはやめるべきです。
ただし、生命保険保険の加入目的が相続税の節税目的ではない(生活の保障である)ということであれば受取人にこだわらなくてもいいと思います。
生命保険の受取人は契約後でも変更することが可能なので、この記事を読んで変更したほうがいいと思われた方は担当者に連絡してください。すぐに変更してくれるはずです。
当事務所では今回お伝えした生命保険金の受取人のことも含めて相続に関する相談を承りますのでご興味のある方はお気軽にご相談ください。
お断り
提供する情報は一般的なもので、いかなる個別の事案に対しても適用されることを保証したり、解決案を提供するものではありません。個別の事案については、専門家の意見を確認したうえで、ご判断下さい。