保険金を受け取っていないのに相続税が課税される場合があります
相続で死亡保険金を受け取ると、受け取った人に税金(相続税の場合が多いですが、贈与税や所得税の場合もあります)が課税されます。
しかし生命保険契約の内容によっては保険金を受け取っていないのに相続税が課税されることもあります。
それは保険金をもらっていなくても、「生命保険契約に関する権利」という財産を相続したとされる場合があるからです。
生命保険契約に関する権利は、実際にお金が動くことがないので生命保険の契約者や金融機関の人も財産という認識がないことが多いです。
私たち税理士も確認不足で相続税の申告もれをする危険性がある注意が必要な財産です。
この記事では、相続税の申告で非常に注意が必要な生命保険契約に関する権利について解説します。
おさえておきたい生命保険の基本用語
生命保険契約に関する権利に対する課税関係を理解するために、次の基本用語をおさえてください。
(1)保険契約者
保険会社との間で保険契約を締結する人です
(2)保険料負担者
保険料を支払う人です。
(3)被保険者
保険を掛けられた人です。被保険者が死亡した場合や病気になった場合などに保険金が支払われます。
(4)受取人
保険金を受け取る人です。
(5)保険事故
人の死亡など保険金が支払われることとなる出来事です。
生命保険契約に関する権利に課税される場合①(遺産分割協議が必要な場合)
次の要件を満たす生命保険契約については、相続が発生したことにより新たに契約者となる人が生命保険契約に関する権利を取得したとして相続税が課税されます。
(1)相続開始時に保険事故が未発生
(2)相続開始時に
契約者=保険料負担者=被相続人(3)掛捨保険契約ではない
たとえば次のような生命保険契約で、(3)掛捨保険契約ではない ものについては
(1)被保険者である母が生存しているため相続開始時に保険事故が未発生
(2)相続開始時に 契約者(父)=保険料負担者(父)=被相続人(父)
であるため、新たに契約者となる母が生命保険契約に関する権利を相続したということで相続税が課税されます。
よく質問を受けるのは実際に保険金を受け取っていないのになぜ相続税が課税されるのかということですが、次のような考えに基づきます。
掛捨てではない生命保険契約の場合、相続開始前、契約者である父は生命保険契約を解約すると保険会社からお金(
解約返戻金と言います)をもらうことができます。
つまり、契約者(父)は保険会社から解約返戻金をもらう権利を所有していたということになります。
相続が発生して新たに契約者となった母は、相続開始後、生命保険契約を解約すると保険会社から相続開始前の契約者(父)が負担していた保険料の分も含めて解約返戻金をもらうことができます。
つまり、新たに契約者となった母は解約返戻金をもらう権利をこれまでの契約者(父)から相続したということで相続税が課税されることになります。
なお、今回の例のように
生命保険契約の契約者が死亡した場合は、新たな契約者は相続人による遺産分割協議で決められることになります(今回の例で言えば相続人による遺産分割協議を経て母が契約者となったということになります)。
また、生命保険契約に関する権利に対して相続税が課税されるわけですが、その評価額は、仮に相続時に保険会社に解約を申し入れたとした場合の解約返戻金の額となります。
この解約返戻金の額は個人では計算できないので、生命保険会社に問い合わせて教えてもらうこととなります。
生命保険契約に関する権利に課税される場合(遺産分割協議が不要な場合)
相続税が課税される生命保険契約に関する権利でも遺産分割協議の対象とならないものがあります。
あまりないケースなのですが、次の要件を満たす生命保険契約については、契約者が生命保険契約に関する権利を取得したとみなされて相続税が課税されます。
(1)相続開始時に保険事故が未発生
(2)相続開始時に
契約者≠保険料負担者=被相続人(3)掛捨保険契約ではない
たとえば次のような生命保険契約で、(3)掛捨保険契約ではない ものについては
(1)被保険者である母が生存しているため相続開始時に保険事故が未発生
(2)相続開始時に 契約者(母)≠保険料負担者(父)=被相続人(父)
であるため、契約者である母が生命保険契約に関する権利を相続したものとみなされて相続税が課税されます。
このケースの場合では
相続開始前の契約者(母)は相続開始後も引き続き契約者なので、遺産分割協議で新たな契約者を定める必要はありません。
また、相続税が課税される生命保険契約に関する権利の評価額は、生命保険契約に関する権利が遺産分割協議の対象となる場合と同様に相続時に保険会社に解約を申し入れたとした場合の解約返戻金の額となります。
生命保険金の非課税は適用されません
相続人がもらった死亡保険金に対しては相続税が課税されますが、そのうち500万円×法定相続人の数については相続税が課税されないという非常にお得な制度があります(生命保険金の非課税)。
しかし生命保険金の非課税はあくまで死亡保険金を受け取った人に適用される制度なので、生命保険契約に関する権利を相続した場合には適用されません。
生命保険契約に関する権利の評価額そのものに対して相続税が課税されることとなります。
生命保険金の非課税についてはこちらで詳しく解説しています。
契約前に押さえておきたい 生命保険の死亡保険金に対する3種類の税金について解説します
生命保険契約に関する権利に課税された後の取り扱い
生命保険契約に関する権利について相続税が課税された場合は、相続開始前に支払われた保険料は、生命保険契約に関する権利について相続税を課税された人が支払ったものとして取り扱います。
たとえば、次のような生命保険契約で掛捨保険契約でないものについては、新たに契約者となった母が生命保険契約に関する権利を取得したとして相続税が課税されます(上記「生命保険契約に関する権利に課税される場合①(遺産分割協議が必要な場合)」で紹介した例です)。
この場合、相続開始前に父が支払った保険料は、相続開始後は母が支払ったものとして取り扱うこととなります。
また今回の例では相続開始後の保険料負担者が母であるため、この生命保険契約の保険料はすべて母が支払ったということになります。
父が支払った保険料を母が支払ったものとして取扱うことによりどのような影響があるのかというと、その後保険金が支払われるときの課税関係に影響があります。
父の相続があった後、被保険者である母が死亡すると死亡保険金は受取人である長男に支払われます。
保険料はすべて母が支払ったとされるので、保険料負担者(母)=被保険者(母)である生命保険契約の死亡保険金が受取人である長男に支払われたということになり、長男に対して相続税が課税されることとなります(生命保険金の非課税も適用されます)。
死亡保険金に対する課税関係についてはこちらで詳しく解説していますので気になる方はお読みください。
契約前に押さえておきたい 生命保険の死亡保険金に対する3種類の税金について解説します
生命保険契約に関する権利は申告しなくても分からない?
生命保険契約に関する権利が課税される場合は、実際にお金が動くわけではないのでこう考える人もいます。
しかし、それは全くの間違いです。今の税務当局はそれほど甘くありません。
相続により契約者が変更された生命保険契約については、生命保険会社から契約者を変更した旨の報告がされます。
さらに相続税の申告がされた場合には税務当局は被相続人・相続人等の預金の明細を把握します。
そのため、生命保険契約に関する権利について相続税の申告をしなかったとしても、税務当局は簡単に把握することができます。
ちなみに、支払金額が100万円を超える保険金や解約返戻金を支払う場合にも保険会社から税務当局に報告がされます。
税務当局は非常に情報収集能力があるので生命保険に限らず正しく申告することをお勧めします。
まとめ
生命保険契約に関する権利は死亡保険金を受け取る場合と異なり実際にお金を受け取るわけではないので、財産という認識が薄い場合が多いです。
そのため、相続税の申告からもれてしまう可能性があるのですが、税務当局は生命保険の情報を把握することができるので簡単に見つけることが可能であり我々専門家も注意が必要な事項です。
また、実は生命保険契約に関する権利について相続税が課税される場合は、そもそも不要な生命保険契約である場合が多いというのが実情です。
生命保険に加入する際には、「生命保険契約の必要性」と「どのように課税されるのか」ということを理解したうえで契約をすべきと言えます。
当事務所では生命保険も含めた相続対策の立案、実行サポートも行っています。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。
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