宅地を評価する方法は2種類あります
相続税は、相続した財産の時価に対して課税されます。
時価とは他人同士の間で、特殊な事情がなく自由に取引が行われる場合に成立する価格を言います。
ここで重要なのが「他人同士」ということです。
もし親から子供への売却であれば安い価格で売却してあげようということもあるでしょう。
しかし、このような価格は時価には該当しません。
まったくの他人に売る場合に売主と買主との間で取引が成立する価格が時価となります。
では、まったくの他人に売る場合に売主と買主との間で取引が成立する価格とはいくらになるのでしょうか?
上場株式であれば証券取引所の取引価格が、まったくの他人に売る場合に売主と買主との間で取引が成立する価格となります。
ところが土地や建物の場合には、まったくの他人に売る場合に売主と買主との間で取引が成立する価格がいくらかというのは非常に難しい話です。
土地は場所や形によって売買される価格が変わってきますし、実際に売りに出すわけにもいかないので取引が成立する価格を調べるのは非常に困難です。
そのため、国税庁では土地の取引が成立する価格を一定の方法で計算することができることとしています。
この一定の方法は、毎年7月1日に国税局から発表される路線価をもとに計算する方法(
路線価方式)及び固定資産税評価額をもとに評価する方法(
倍率方式)の2つがあります。
この記事では、土地のうち特に宅地(建物の敷地として利用されている土地)の路線価方式と倍率方式による評価の基礎について解説します。
まずは宅地の面積と持分を把握します
宅地を評価する場合には、評価しようとする宅地の面積を把握しなければなりません。
宅地の面積は固定資産税の納税通知書と一緒に送付される課税明細書で確認することができます。
この課税明細書に記載されている土地の面積は課税地積(㎡)に対応する欄に記載されている143.08㎡となります。
さらに1つの宅地を他の人と共有している場合は、その人の持分(所有権の割合)を把握しなければなりません。
持分は課税明細書には記載されていないので、もし分からない場合は登記簿謄本の 権利部(甲区)(所有権に関する事項) により確認することができます(下記の登記簿謄本の画像は共有ではなく法務五郎さんが一人で所有している宅地の登記簿謄本となります)。
登記簿謄本は法務局で取得できるほか、
登記情報サービスというサイトで登記簿謄本に記載されている情報を有料で確認することができます。
他の人と共有している宅地については、後述する路線価方式あるいは倍率方式で計算した評価額に共有持分を乗じた金額が相続税評価額となります。
宅地の評価方式(路線価or倍率)を判定します
次に評価をしようとする宅地の評価方式(路線価方式or倍率方式)を判定しなければなりません。
宅地の評価方式は国税庁のHPに記載されている倍率表で確認することができます。
令和2年に小山市の神山と萱橋という地域にある宅地を評価する場合で見ていきたいと思います。
(小山市 倍率表 令和2年)で検索するとつぎのように表示されるので、クリックします。
小山市の倍率表が表示されるので、評価したい宅地(神山と萱橋)が所在する住所を探します。
神山1~2丁目の宅地は全域で「路線」となっているので、神山1~2丁目にある宅地は路線価方式で評価することとなります。
一方、萱橋は市街化区域の宅地も市街化調整区域の宅地もどちらも1.1と表示されています。
このように数字が表示されている宅地については倍率方式により評価することとなります(萱橋は倍率方式で評価します)。
路線価方式による宅地の評価
路線価方式により宅地を評価する場合には、評価しようとする宅地に面している道路の路線価を調べなければなりません。
路線価を調べるには (国税庁 路線価) で検索してつぎのような国税庁の路線価のページをひらきます。
ここから評価しようとする宅地の所在地を探していくと次のような地図(路線価図)が表示されます。
路線価図では道路ごとに 61F といったように数字とアルファベットの組み合わせが表示されています。
このうち数字の部分が路線価であり単位は千円です。
例えば61Fと表示されている道路に面している宅地は1㎡あたり61
千円(61,000円)ということになります。
後ろについているアルファベットは、その道路に面している宅地の借地権割合(※)を表しているのですが宅地や建物を賃貸していない場合は関係ないので無視しても大丈夫です(賃貸している場合は考慮しなければなりません)。
路線価が分かれば、あとは先ほど把握した面積を乗じることによりその宅地の評価額が計算できます。
たとえば路線価が61,000円で面積が300㎡の宅地の場合、更地としての評価額は 61,000円×300㎡=18,300,000円 となります。
実際には「間口が狭くないか」「奥行きが長すぎないか」「形が不整形でないか」「大きすぎる宅地でないか」などの要素を勘案すると評価額が減額されることが多いのですが、生前相続対策として大まかに宅地の評価額を計算するということであればこれで十分だと思います。
実際に相続税の申告をする場合には、これらの減額要因を考慮することにより相続税額を大きく減らすことができるので、路線価による土地の評価は私も非常に努力するところです。
倍率方式による宅地の評価
倍率方式で評価する宅地は、次の算式で(相続税)評価額を計算します。
宅地の固定資産税評価額×倍率
宅地の固定資産税評価額は先ほど宅地の面積を調べるのに利用した固定資産税の課税明細書で確認することができます。
上記の固定資産税の課税明細書では
価格(円)に対応する欄に表示されている2,511,483円が固定資産税評価額となります。
自体によっては「
価格」ではなく「
評価額」と表示されているところもあります。
「課税標準額」と記載されている個所ではありませんのでご注意ください(たまに間違って認識している人がいます)。
また、価格あるいは評価額と表示されている固定資産税評価額は複数の人で共有している土地であっても共有持分を考慮しない土地全体の評価額となっています。
倍率はさきほどの倍率表に記載されていた数字です。
仮に上記の課税明細書の土地の倍率が1.1の場合、(相続税)評価額は
2,511,483×1.1=2,762,631円 となります。
公示価格、路線価、固定資産税評価額の違いと関係性
先ほど説明した路線価方式による評価額は相続税や贈与税の計算をする際に用いる評価額です。
しかし宅地については、路線価による評価額のほかに「公示価格」「固定資産税評価額」といった評価額が存在します。
「公示価格」とは国土交通省が発表する毎年1月1日時点における標準地の価格で、まったくの他人である売主と買主との間での適正な売買価格の目安のようなものです。
「路線価」は、「公示価格」の80%程度を目安に設定されています。
「路線価」が「公示価格」の80%程度を目安に設定されているのはいろいろな説があるのですが、実際に宅地を売買する場合には売り手と買い手の関係から公示価格より低い価格で売買される可能性があり、公示価格で相続税を計算することにより税負担が過大となってしまうことを防止するというのが理由の一つと言われています。
また倍率方式による宅地の評価の計算で出てきた「固定資産税評価額」は、各市町村が固定資産税を計算する際に採用される評価額です。
「固定資産税評価額」は、「公示価格」の70%程度を目安に設定されています。
このような公示価格と路線価、固定資産税評価額の関係性を利用して、固定資産税評価額が分かる宅地の相続税評価額(路線価)や売買価格の目安を計算することもできます。
たとえば固定資産税評価額が1億円の宅地の場合、相続税評価額の目安は
1億円×(80/70)=114,285,714円 となります。
まったくの他人である売主と買主との間での売買価格の目安は
1億円×(100/70)=142,857,142円 となります。
実際に相続税の申告をしたり宅地の売買をする場合には正規の方法で評価額を計算しますが、生前相続対策をするような場合は簡便的にこのような計算でもいいでしょう。
相続税を大きく減らすことができる小規模宅地等の特例
路線価方式や倍率方式で評価する宅地の評価額ですが、利用状況によっては評価額がさらに80%引き(20%に課税)あるいは50%引き(50%に課税)となる
小規模宅地等の特例という制度があります。
これは自宅の敷地や個人事業あるいは同族会社で使用している建物の敷地、不動産貸付業に利用している宅地などについて適用されます。
地価の高い場所では相続税の節税効果が非常に大きくなる制度ですがケースによっては適用できないことがあるので、適用することができるのか、適用できない場合は適用できるようにする方法はないのかということを事前に検討することをお勧めします。
詳しく知りたい方はコチラ→
土地の評価を80%減額! 特定居住用宅地等について解説します
まとめ
宅地の評価について解説しましたがいかがでしょうか?
相続税の申告を実際にする場合には、特に路線価方式による宅地について減額要因(実際には増額要因もありますが)を考慮しないと相続税が高くなってしまうので慎重に評価する必要がありますが、生前相続対策をする分にはこの記事のような簡便な評価で構わないと思います。
また小規模宅地等の特例を適用できれば相続税を減らすことができますが細かく要件が定められていますので、相続が発生する前に小規模宅地等の特例が適用されるように状況を整えておくことをお勧めします。
当事務所では土地の評価を含め生前に財産の状況を整理して相続税の節税対策・争族対策の立案・サポートをすることに取り組んでいます。
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